日本に限らず、世界中の野党には永遠に政権を担う気がないのではないかと思うほど、単に政権批判を繰り返すだけの党が多いと感じるが、本書によると、米国の民主党はそのような党ではない点が、他国と大きく異なるという。
また、民主党は人権思考の党である。黒人の人権、女性の人権、移民の人権、さらには信教の自由からプライバシーの権利に至るまで、また消費者の権利保護や、医療過誤訴訟における患者の権利まで、民主党は個人の人権を重視するということでは、世界でも最も熱心な政党だと言って構わない。
ところが、民主党はいわゆる「反対党」ではないのだ。
勿論、共和党が政権の座にあるときは民主党は野党である。だが、アメリカの民主党は万年野党ではない。政権担当能力を常に維持しており、仮に野党である場合にも、いわゆる反対のための反対が惰性となるようなことはない。そしてひとたび政権を担当すると、実際にその社会民主主義的政策や人権擁護政策を実行に移すのである。この点に関しては、英国の労働党が似ている。だが、英国労働党とは決定的に異なる点がある。
それはアメリカの民主党が徹底した「愛国の党」だということだ。
(中略)
何故かというと、アメリカの民主党には「自分たちがアメリカの国是を護持する本流の存在」という自負があるからだ。
アメリカの共和党と民主党の関係は、日本で一般的に思われているイメージとは歴史的にもけっこう異なっている。例えば、現在、黒人の人権擁護に熱心なのは民主党というイメージがある。また、北部では民主党支持者が多く、共和党は主に南部で支持を得ている。
ところが、もともとは共和党は北部を拠点としていた。ウィキペディアでの記述は以下のとおり。
共和党は最大のライバル民主党に次ぐ歴史を持つ政党である。1854年、準州に奴隷制が拡大する危険をはらんだカンザス・ネブラスカ法を廃止し、経済の近代化をより強力に推進することを目的に結党された。南部ではほとんど存在しないに等しかったが、北部ではホイッグ党員と自由土地党員を吸収し、1858年までに北部のほぼ全ての州で多数派を形成した。
1860年、共和党からエイブラハム・リンカーンが大統領に選出され、南北戦争において合衆国を勝利に導き、奴隷制度の廃止に成功すると、共和党の優位は盤石となり、世界恐慌直後の1932年まで続いた。
黒人奴隷を解放したエイブラハム・リンカーンは共和党の大統領であり、また、極めて親中的な外交を行い、太平洋戦争開戦に至らしめたフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領は民主党の大統領である。
よくワイドショーなどで語られる、共和党=タカ派、民主党=ハト派といったようなイメージは、たしかにそういう面もあるが、それほど単純なものではない。アメリカ政治の歴史を知る上で本書はたいへん役に立つ。
おすすめ度★★★★☆
2020年8月30日読了