『平家物語』は鎌倉時代前期に成立したとされる軍記物語であり、作者は未詳である。
平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての日本を舞台にした叙事詩であり、平安時代末期の治承・寿永の内乱を背景に、平安貴族社会の終焉と武家社会の興隆を描いている。物語は「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」という有名な一節で始まり、仏教の無常観を背景にして物語が進む。平家の権力への追求とその傲慢さが引き起こした多くの悲劇、そして最終的な滅亡は、物事のはかなさと因果応報の教えを強調している。
平家物語は当初は「治承物語」と呼ばれていたと推測されているが、正確な成立時期や作者については不明な点が多い。
成立の過程において、全3巻から始まり、6巻(延慶本)、12巻(八坂本)、20巻(長門本)など、多様な派生本が存在する。他の人によって書き足され、完成されたとされている。琵琶法師による「語り本」の形で継承され、その語りが「平曲」と呼ばれるようになり、この形で平家物語は日本各地に広まっていった。
作者については、複数の説があるが、鎌倉末期の『徒然草』では、信濃前司行長という人物が作者であるとする記述がある。行長は生仏という盲目の僧に物語を教え、語り手にしたとされている。行長は中山(藤原氏)中納言顕時の孫で、藤原行長とも推定されている。また、親鸞の高弟で法然門下の西仏という僧が作者とする説もあるが、これらの説には史料的な裏付けがなく、作者に関しては定説がない状態である。
『平家物語』の現存する諸本は、琵琶法師によって口承で伝えられた「語り本」系統と、読み物として増補された「読み本」系統に大別される。語り本系は、さらに八坂流系と一方流系に分かれ、それぞれ特徴的な内容を持っている。語り本は、琵琶を弾きながら語られることから「平曲」と呼ばれ、日本の各地で伝承されてきた。
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